365 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/01(月) 14:06:24 ID:jZMGGFeIO
俺はもう一度立ち止まり、目を凝らして後ろを眺めた。
・・・やっぱり誰もいない。
確かに俺の足音にマジって、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえたのだが?
俺も淳のように、自分でも気付かないうちに、精神的に『中年女』追い詰められているのか?
ビビり過ぎているのか?
しばらく立ち止まり、ずーっと後ろを眺めた。


ドックンドックン鼓動を打っていた心臓が、一瞬止まりかけた。
15M程後方、民家の玄関先に停めてある原付きバイクの陰に、誰かがしゃがんでいる。
いや、隠れている。
月明かりでハッキリ黙視できないが、一つだけハッキリと見えたものがある。
コートを着ている!

しばらく俺は固まった。

隠れている奴は、俺に見つかっていないと思っているようだが、シルエットがハッキリ見える!

俺は一瞬混乱した。
中年女だ!中年女だ!中年女だ!中年女!中年女!
腰が抜けそうになったが、本能だろうか、
次の瞬間、
逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ逃げなきゃ!
と、もう一人の俺が俺に命令する。

俺は思いッキリ走った!運動会の時より必死に走った。
風を切る音以外聞こえない程、無呼吸で走った。





413 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/02(火) 17:47:42 ID:VN7lh4fvO
無我夢中で家に向かって走った。
家まであと10M。よし!逃げ切れる!

『!』

一瞬、頭にあることがよぎった。
このまま家に逃げ込めば、間違いなく家がバレる!

俺はとっさに自宅前を通過し、そのまま住宅街の細い路地を走り続けた。
当てもなく、ただ俺の後方を着いて来ているであろう『中年女』を巻く為に・・・

5分ほど、でたらめな道を走り続けた。

さすがに息がキレて来て歩きだし、後ろを振り向いた。
もう、『中年女』らしき人影も足音も聞こえて来ない。
俺は周囲を警戒しつつ、自宅方面へ歩き始めた。


再び自宅の10M程手前に差し掛かり、俺はもう一度周囲を警戒し、玄関にダッシュした。
両親が共働きで鍵っ子だった俺は、すばやく玄関の鍵を開け 中に入り、すばやく施錠した。
『フぅー・・・』
安堵感で自然とため息が出た。
とりあえず慎に報告しなければと思い、部屋に上がろうと靴を脱ごうとした時、玄関先で物音がした。

『!?』

俺は靴を脱ぐ体制のまま固まり、玄関扉を凝視した。
俺の家の玄関は、曇りガラスにアルミ冊子がしてある引き戸タイプなのだが、
曇りガラスの向こう側に・・・
玄関先に誰かが立っている影が映っていた。



451 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/03(水) 08:46:27 ID:FVrpBt6MO
玄関扉を挟んで1M程の距離に『中年女』がいる!
俺は息を止め、動きを止め、気配を消した。
いや、むしろ身動き出来なかった。
まるで金縛り状態・・・蛇に睨まれた蛙とは、このような状態の事を言うのだろう。
曇り硝子越しに見える『中年女』の影を、ただ見つめるしか出来なかった。


しばらく『中年女』は、じっと玄関越しに立っていた。微動すらせず。
ここに俺がいることがわかっているのだろうか?
その時、硝子越しに、『中年女』の左腕がゆっくりと動き出した。
そして、ゆっくりと扉の取手部分に伸びていき、
キシッ!と扉が軋んだ。
俺の鼓動は、生まれて始めてといっていいほどスピードを上げた。

『中年女』は扉が施錠されている事を確認すると、ゆっくりと左腕を戻し、再びその場に留まっていた。
俺は依然、硬直状態。

すると『中年女』は、玄関扉に更に近づき、その場にしゃがみ込んだ。
そして、硝子に左耳をピッタリと付けた。
室内の様子を伺っている!

目の前の曇り硝子に、『中年女』の耳が鮮明に映った。
もう俺は緊張のあまり吐きそうだった。鼓動はピークに達し、心臓が破裂しそうになった。
『中年女』に鼓動音がバレる!と思う程だった。



457 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/03(水) 09:18:17 ID:FVrpBt6MO
『中年女』は二、三分間、扉に耳を当てがうと再び立ち上がり、こちら側を向いたまま、
ゆっくりと一歩ずつ後ろにさがって行った。
少しづつ硝子に映る『中年女』の影が薄れ、やがて消えた。

『行ったのか・・・?』
俺は全く安堵出来なかった。

何故なら、『中年女』は去ったのか? 俺がここ(玄関)にいることを知っていたのか?
まだ家の周りをうろついているのか?
もし、『中年女』に俺がこの家に入る姿を見られていて、
俺の存在を確信した上で、さっきの行動を取っていたのだとしたら、
間違いなく『中年女』は、家の周囲にいるだろう。

俺はゆっくりと、細心の注意を払いながら靴を脱ぎ、居間に移動した。

一切、部屋の明かりは点けない。
明かりを燈せば、俺の存在を知らせることになりかねない。
俺は居間に入ると真っ直ぐに電話の受話器を持ち、手探りで暗記している慎の家に電話をかけた。

3コールで慎本人が出た。
『慎か?!やばい!来た!中年女が来た!バレた!バレたんだ!』
俺は小声で焦りながら慎に伝えた。
『え?どーした?何があった?』と慎。
『家に中年女が来た!早く何とかして!』
俺は慎にすがった。



546 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:04:28 ID:8b48b6KiO
『落ち着け!家に誰もいないのか?』
『いない!早く助けて』
『とりあえず、戸締まり確認しろ!中年女は今どこにいる?』
『わからない!でも家の前までさっきいたんだ!』
『パニクるな!とりあえず戸締まり確認だ!いいな!』
『わかった!戸締まり見てくるから早く来てくれ!』


俺は電話を切ると、戸締りを確認しにまずは便所に向かった。
もちろん家の電気は一切つけず、五感を研ぎ澄まし、暗い家内を壁づたいに便所に向かった。
まずは便所の窓を、そっと音を立てず閉めた。
次は隣の風呂。
風呂の窓もゆっくり閉め、鍵をかけた。
そして風呂を出て、縁側の窓を確認に向かった。
廊下を壁づたいに歩き、縁側のある和室に入った。


縁側の窓を見て違和感を覚えた。
いや、いつもと変わらず窓は閉まって、レースのカーテンをしてあるのだが、
左端・・・人影が映っている。
誰かが外から窓に顔を付け、双眼鏡を覗くように両手を目の周辺に付け、室内を覗いている。
家の中は電気をつけていない為、外の方が明るく、こちらからはその姿が丸見えだった。
窓に『中年女』が、ヤモリの如く張り付いている。
俺は腰が抜けそうになった。



548 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:31:11 ID:8b48b6KiO
これは動物の本能なのだろうか?
肉食獣を見つけた草食動物のように、俺はとっさにしゃがみ込んだ。
全身が無意識に震えていた。

『中年女』からこちらは見えているのか?
『中年女』はしばらく室内を覗き、そのままの体勢で、ゆっくりと窓の中心まで移動して来た。

そしてキュルキュルキュルと、嫌な音が窓からしてきた。
『中年女』の右手が窓を擦っている。左手は依然、目元にあり、室内を覗きながら。
キュルキュルキュル
嫌な音は続く。
俺の恐怖心はピークに達した。
何かわからないが、『中年女』の奇行に恐怖し、その恐怖のあまり、声を出す事すら出来なかった。


すると『中年女』は後ろを振り返り、凄い勢いで走り去って行った。
俺は何が起きたかわからず、身動きも出来ずに、ただ窓を見ていた。
すると窓の向こうの道路に、赤い光がチカチカしているのが見えた。
「警察が来たんだ!」
俺は状況が飲み込めた。
偶然通りかかったパトカーに気付き、『中年女』は逃げて行ったんだと。

しばらく俺はしゃがみ込んだまま震えていた。
プルルルルル!
その時、電話が突然鳴った。
もう心臓が止まりかけた。
ディスプレイを見ると、慎の自宅からの電話だった。



551 :ハッピー・タッチ 』◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:47:22 ID:8b48b6KiO
俺は慌てて電話に出た。
『どう?』
『なんか部屋覗いとったけど、どっか行った・・・』
『そっか、親帰って来たんか?』
『いや、たまたまパトカー通って、それにビビって中年女逃げたんや思う』
『そーなんや!良かった。俺、お前んちの近くに不審者がいるって、通報しといてん。
でも、あいつに家バレたんやったら、そろそろ親にも相談しなあかんかもな・・・』
『・・・』
『俺も今日、親に言うから・・・お前も言えよ!もうヤバイよ!』
『・・・うん・・・』
そして電話を切った。


その30分後、母親がパートから帰って来た。
俺は部屋の電気を消したまま玄関に走り、母の顔を見た瞬間、安堵感からか泣き出した。
母親はキョトンとしていたが、俺はしばらく泣き続けた後、
『ごめんなさい』と冒頭に謝罪をし、『あの夜』の出来事から、さっきの出来事まで説明した。
説明の途中に父親も帰宅し、父には母が説明した。


その後、父が無言で和室の窓硝子を見に行った。
窓硝子は、鋭利な何かで凄い傷が付けられていた。
鋭利な何かが五寸釘だと、直感でわかった。
両親は俺を叱らず、母親は俺を抱きしめてくれ、父は警察に電話をかけていた。


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