397 :名無しさん:2013/10/21(月) 22:25:17 ID:K4kyLChY0
会社の後輩の話だ。そいつは高校卒業して
地元から出てきて専門学校を経て今の会社に入ってきた。
業務はソフトウエアの開発で、一日中パソコンに向き合ってる。
これは見た目よりもストレスがたまる仕事で、わりに齢が近いんで親しくなって飲みに行くようになった。
そこで夢の話を聞かされた。
10歳くらいのときから、毎年同じ8月24日の夜に同じ夢を見るんだそうだ。
そいつは四国の出身でけっこう珍しい名字なんだが、
この話では折目と呼ぶことにする。
夢は折目の実家、これはその地方ではかなり由緒正しい家柄らしく、
十何部屋もあるお屋敷なんだそうだが、
その庭の隅に祀ってあるお社にはいっていくところから始まるらしい。
お社の扉を開けると中が黒々とした空洞となっていて、一歩入ると土の階段が地下深くまで続いている。
真っ暗で何も見えない中を横の土壁にさわりながらそろそろと下りていくと、
うっすらと明るくなってきて曲がり角になってる。
そこを曲がると土が掘られたくぼみが横壁にあって、太いロウソクが一本と
握りこぶし大のごつごつした石がある。
それを見るとなぜか持っていかなくてはならないという気になって、両手に持って進んでいく。
かなり長い直線が続き、だんだんに突きあたりに土の祭壇があるのが見えてくる。
祭壇のある場所は、人ひとり通れるくらいの細い通路から地下の広場のように開けて、
祭壇には三宝とロウソク立てがしつらえてあり、
そこに持ってきた石とロウソクを立てる。
するとなんだか責任を果たし終えたというようなひじょうな安堵感があり、
だいたいいつもそのあたりで目が覚める。
これが毎年毎年続いているというんだ。
で、ロウソク立ては白木に横にロウソクをずらっと並べるやつで、
毎年夢を見るたびに一つずつ増えていく。三宝の上の石も同じ。
こちらをからかってるようには見えないし、酒の話としては面白いのであれこれと質問してみた。
18歳前までは、祭壇のものが増えているのをのぞけば夢の内容はほぼ同じだったが、
その年は祭壇の向こうに見覚えのあるばあさんが立ってて、
折目が歩み寄ってくるのをじっと見ていたのだそうだ。
ばあさんは白い着物を着て、筋張った手で石の一つを強く握りしめていた。
見覚えがあるというのは、実家の仏間にそのばあさんの遺影が飾られていたからで、
折目から見てひいばあさんにあたる人らしかった。
それ以後、祭壇の後ろに立つ人が一人ずつ増えていって、
みな折目からは先祖にあたる人だという。
その人たちはだれもが白い着物を着て、石を震えるほど強く握りしめている。
3年前は早くに亡くなった折目の父親が出てきて、
一昨年はまだ生きている折目家の当主、つまり折目の長兄が出てきたという。
庭にあるお社のことを聞いてみたら、一間四方くらいの
プレハブ小屋よりも小さなもので、当主の兄が毎日お供えなどの世話をしている。
中は木造で赤い座布団の上に一抱えほどもある何かが安置されていて、白い布がかけられている。
固く禁じられていたので、ご神体はもちろん見たことはない。
お社自体は「まんつま」と言われていて、そこら地域一帯ではよく知られているものだという。
その前は人ひとりやっと立てるかどうかという空間で、地下に下りていけるようなスペースはない。
下はむきだしの土で色が変わったりしていることもない。
その下に空間があるとはちょっと考えられないという。
それから、その8月24日の晩に眠らなかったらどうなるんだろうと聞いてみたら、
二回試したことがあるんだそうだ。
一回目は高校のときで、ゲームをしながら朝まで起きていようとしたが、
机にもたれていつしかコトンと眠りに落ち、やっぱり夢を見てしまった。
二回目は専門学校にいるときで、
仲間を誘って徹夜マージャンをしてみたが、闘牌しながらフーッと気が遠くなって、
仲間につつき起こされるまでに夢を見てしまったそうだ。
自分では夢の中での時間は10分近くあるように感じたのだが、
起こした仲間に聞いたら、目をつむっていたのはほんの数秒だったそうだ。
折目の家は兄弟が多く、男だけ5人いてほぼ年子のように年齢が近い。
だから当主と言ってもまだ20代だ。
折目はそのうちの三男で、兄弟の中で地元を離れたのはこいつだけだ。
あとはみな、地元の大学を出て町役場などに勤めているし、下のほうはまだ学生もいる。
お前だけこっちに出てくるのを反対されなかったのか、と聞いたら、
自分は小さいころから他の兄弟に比べてひいきされていた気がする、という。
イタズラで物を壊したりしてもまず怒られることはなく、
お菓子や学用品なども他の兄弟より多くもらったりしていた。
小さい頃はそれで得意になっていたが、
他の兄弟が不平をもらすたびに、母親やばあちゃんが
「○○は特別だから」と言って他の兄弟をかえってしかりつけた。
中学生くらいになると、その特別扱いがなんだか負担になってきて、
高校では進路を、地元の国立大学に進学するとばかり思っていた家族をしりめに、
強引にこちらの専門学校に決めてしまったのだそうだ。
いよいよ家を出るというときに、見送りに出た母親が折目に向かって、
悲しそうな顔で「まんつまからは離れられないから」と言ったらしい。
それで去年の8月24日の翌日、会社の始業前に夢の話を聞いてみた。
そしたらやっぱり見たという。
しかしその夢はこれまでとは少し違っていたらしい。
ロウソクと石を持っていくまでは同じだが、祭壇の後ろに並んでいた人が言葉を発した。
これまでは全身に力を込めて石を握りしめながら折目を見ているだけだったのが、
ロウソクを立て石を置いたと同時に、
最初に出てきたひいばあさんが耳元に顔を近づけて、
「お務めごくろう、これもあとひととせ」としわがれた声でささやいた。
そのときにぞくぞくっと背筋を寒気が走って飛び起きた。
これまでのような達成感は何もなく、心臓の動悸が激しくなっていて、
初めてこの夢が怖い、と思ったという。
これから1年後に何かとんでもないことが起きるような気がするんです、とも言っていたな。
何とも答えようがなかったけど。
今年の8月になって、折目が失踪した。
会社の独身寮に朝になっても帰らず、そのまま連絡もつかない。
もちろん出勤もしないため、1日置いてから実家に連絡した。
事情を話して捜索願を出すこともすすめたが、
電話に出た長兄は、
「会社は退職させていただきます。ご迷惑をかけて申し訳ありません。
荷物などは後に取りにうかがいます」と慇懃かつ事務的に繰り返すだけだったそうだ。
それから24日前には寮に折目の2番目の兄がわずかな荷物を取りにきた。
管理人に後で聞いたところでは、折目に顔形がそっくりだったらしい。
あれから2ヶ月が過ぎたが、折目の実家とは連絡が取れなくなってしまい、
帰っているのかどうなったのかまったくつかめない。
この夢の話と関係があるのだろうか。